小島やよいのアートママ奮戦記

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夏への扉@水戸芸術館現代美術ギャラリー


美術評論家の松井みどりさんが、
この10年間の、日本の新しいアートの傾向を
「マイクロポップ」と名付け、定義づけた。
松井さん、いい仕事してるなあ、と思う。
アーティストは、自分はマイクロポップ、と思って作品をつくるわけではない。
けれど、現代美術はその時代、その時の社会を反映するものだから、
新しい表現をする人たちに、何か共通した傾向、流れが出てくる。
それを見極めて定義づけ、美術史にしていくのが、美術評論家なんだな、と思う。
それだけの責任を負っているのだから、エネルギーのいる仕事だと思う。
エネルギーを注ぎ込んだ展覧会、「夏への扉—マイクロポップの時代」。
15人の作家が、力作を出品している。
(5/6まで。)
http://www.arttowermito.or.jp/natsutobira/natsutobiraj.html


松井さんは、パッションにあふれる人だ。
会うと、その、湧き出てくるような言葉の泉に圧倒される。
それは美術のことはもちろん、映画や、小説や、漫画や、アイドル、
ファッションにいたるまで。
作家は、言葉で表現し尽くせないことを、作品で表現しているので、
自分の作品のことを言葉で説明するのは苦手、という人も少なくない。
それを松井さんのような人がすくいあげ、すくいあげるそばから言葉で表現していくと、「そういうことだったのか」と思うそうだ。
それは、作品を観る人にとっても、そうだろう。
芸術にとって、すぐれた評論家は、必要かつ重要な存在なのだ。

さて、展覧会「夏への扉」。
素晴らしかった。
松井さんの表現したかったことと、作家たちの表現したかったことが、
とてもクリアに見える。
導入としての島袋道浩の、「今、ある状況で、できること」を表現する作品、
特に<南半球のクリスマス>や<人間性回復のチャンス>。
野口里佳の<太陽>のシリーズも、ピンホールカメラでいろいろなところで
太陽を撮っている、言ってみればそれだけ。
なのに、胸にグッと迫るものがある。
青木陵子のドローイングと切り紙細工のインスタレーションは、
いつもながらの彼女の持ち味が存分に発揮されていて、楽しい。
マイクロポップの先駆者、奈良美智のペインティングと、
奈良のかつての教え子であり、精神的伴走者でもある杉戸洋の
ペインティングの部屋では、2人の共鳴音が心地よく感じられる。
そして落合多武のドローイング。彼のドローイングをこんなにまとめて(171点!)
観たのは初めてだ。1点ずつ、観ていくと、彼の頭の中をのぞいてみたような、
あるいは、彼と対話したような充実感があった。
いろんな作品を観てきたような気がしていたけれど、今度は落合多武という作家が、
初めてちゃんとわかったような気がする。
森千裕の部屋、ボキャブラリーが多くておもしろい。
半田真規の部屋。「もの」感に圧倒されつつも、どこか空虚な感覚がある。
謎解きのよう。
田中功起の部屋。うまい。ひとつずつの映像作品もうまいし、
インスタレーションとしての、部分も全体も、よくできている。
そして少し離れた自閉症のような部屋で、K.K.。
実の父親からの書簡やメールのコピーを読んでいると、
この作家の意外な一面が見えた気がした。

以上、私の第一印象であり、「気がした」という曖昧な書き方になって
しまっているが、つまりは「気がする」ことが「想像する」ことにつながるので、
大事なことなのではないだろうか。
そこから、想像し、考える。
「想像する」ことの重要さ、そして「想像する」ための、
重要なことを示唆してくれる展覧会だと思う。

ところで後日、ギャラリーの「フェイス」(監視と解説をするスタッフ)の一人の方から、
「お客さまの中には、ここに出品してる人たち、ちゃんとした大人なの!?と、
怒り出す方もいらっしゃいます」
と聞いた。
いかにも美術作品です、といった展示を期待してきた人には、
こどもかアマチュアが描いたのではないか、と思わせるのかもしれません、と。
それは、松井さんの意図があたっている証明だなと思う。
いかにも美術作品、とはなんなのか。
美術とは、作品とはなんなのか。
こんなのも、美術なの?作品なの?
と疑問を抱かせることが、第一歩だから。
「そうねー、でも、じゃあ、こういうの描けますか?と言われたら描けないですよね。
それにこどもにも描けないと思いますよ」と言ったら、
「ええ、そう思います。そして、この展覧会、1ヶ月ずっと観ていたら、
作品が話しかけてくるような気がして。最初はあまり思わなかったんですけど、
完成された立派な作品ばかりが並ぶ展覧会より、作品が話しかけてきて、
気になって観てしまう、そんな展覧会だと思います」
と話してくださって、
なんて素敵なんだろう、と嬉しくなった。

この10年間の日本のアート、そして、今後のアートを考える上で、
きわめて重要な展覧会に違いない。
まだ観ていない人は、ぜひ!
そして展示写真も含めた松井さんの著書『マイクロポップの時代:夏への扉』
(PARCO出版)も、ぜひ、手に取ってみてください。
松井さんご自身の言葉による「マイクロポップ」を、読み取ってみてください。

さて、先日、RQとともに、「夏への扉」展関連企画
「赤ちゃんと一緒に美術散歩」に参加してきました。
それについては、近々書きます!

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